ユニパルスでは、ミクロンからナノメートルの分解能で物体の位置や振動を測定できる変位計も開発しています。
今回はこの変位計についてご紹介いたします。
精密な機械では、部品の隙間や相対位置を正確に測定しなければならない用途が多数あります。2つの物体の相対的な距離の変化を「相対変位」といい、相対変位を測定する装置を「変位計」といいます。
測定対象物に測定プローブを接触させて変位を測定する装置を接触型変位計といいます。当社のULE-50などがこれにあたります。
図1にULE-50の使用例を示します。これは、圧入機の圧入荷重と圧入シリンダの変位を同時に測定することにより、圧入の良否判定を行う装置です。
ULE-50は測定レンジが50mmと広く、測定箇所の仕上げ状態に影響されず、油やミスト環境など悪条件でも使用可能なことから、圧入機を始めとする生産ラインで用いられています。
図1: 接触式変位計ULE-50を使った圧入機
ところで、測定対象物にプローブを接触させる接触式変位計は、測定対象物をキズつけたり汚染させることがあります。
半導体や液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ、ハードディスクなどといったクリーンルーム内の生産工程では、ワークに触らずに測定できる非接触変位計が多数使われています。
また、周波数が高い振動測定では、可動部の質量のために振動を正確にトレースすることができません。数10Hz以上の振動測定には非接触変位計が用いられます。
非接触変位計には様々な種類があります。ユニパルスでは静電容量方式、光ファイバー方式、渦電流方式という3種類の非接触変位計をご用意しています。
それぞれの特徴と主な用途などについて説明します。
静電容量方式変位計では、図2に示したようなプローブ端面と金属面など導電性のターゲットとの間の距離を測定します。
ターゲットは導電体である必要があり、ターゲットと筐体のGNDを導線で接続します。変位に比例したアナログ電圧が出力されますので、オシロスコープやマルチメータ、データロガー等で容易に観察したり記録したりすることができます。
図2: 静電容量方式変位計の使用法
ユニパルスの静電容量変位計は
といった特徴があります。
これらの特徴を生かして、以下のようなアプリケーションで使われています。
圧電素子や磁歪素子、磁気浮上ステージなどナノメートルオーダーの分解能が必要な超精密ステージの変位測定やフィードバック制御。
図3は、3軸の変位計を使ってミラーの2軸方向の傾きを調節する超精密チルトステージです。
図3: 静電容量方式変位計を使った微小角度制御
シリコンウエハやハードディスク、液晶ディスプレイなどをターゲットとしたオートフォーカス用センサなど、変位の測定方向と直角方向に動く物体の測定。
図4: 静電容量方式変位計を使った測定方向と直角方向に動くターゲットの変位測定
以上の機能を持った静電容量変位計を、2チャンネル同時に測定が行えるようにした2チャンネルポータブルモーションアナライザUMA-500(図5)。
静電容量変位計2チャンネルを同時に測定して各種演算を行い、数値を表示するだけでなくグラフなどにより可視化できるものです。
デジタル処理により0.01%以下の直線性を実現、加算や減算を行っても高い精度を実現しています。
図5: 2チャンネルポータブルモーションアナライザ UMA-500
通常、精密な機械の組み立てやトラブルシューティグでは、ダイヤルゲージで各部の相対変位を測定し組み立てや故障診断を行います。しかし、文字通り各部のダイヤルを目視で読むのは大変ですし、同時に読むことはできません。
UMA-500は、2箇所の変位を同時に測定し加算・減算した数値やグラフを表示したり、リサージュ図形を描いたりすることができます。また、周波数解析も可能です。精密機器の組立調整、トラブルシューティングなどに必要な各種測定を迅速かつ高速・高精度に行うことができます。
例えば、工作機械のシャンクとヘッド間の剛性測定振動モード解析、回転体のRun-Out測定(図6)、プレートの厚み測定(図7)など、便利な一台としてご使用いただいています。
図6: UMA-500を使った回転軸のRun-Out測定
図7: 厚み測定
また、UMA-500で、2チャンネルの静電容量プローブを背中合わせにした薄型の隙間測定専用プローブを装着して隙間を定量的に測定することができます。
従来隙間の測定は、厚みがわかっている板を数枚用意しておいて、こっちの板は入るけどこっちの板は入らないから隙間はこの間の値である、という、隙間ゲージを使って測定する方法が一般的です。しかし、隙間ゲージでワークを傷つける可能性もありますし、入り口が狭くて奥が広くなっている隙間を測定することはできません。
この隙間プローブを使えば、隙間を0.01μmの分解能で定量的に測定することができます。隙間プローブは長さ200mmで目盛りが刻んであるので、何mm奥の隙間を測定しているかも簡単にわかります(図8)。
図8: 隙間プローブを使った隙間測定
「光ファイバー方式変位計」は、ステップインデックスファイバーを束ねて片方を二股に分けた光ファイバーバンドルを使用します。二股に分けた片方の端面から光を入射させます。これを投光ファイバーと呼びます。光は投光ファイバー内を伝わって、測定端から放射されます。その光はターゲットで反射し、一部は受光ファイバーに入射し、その光量を受光素子で測定するという仕掛けになっています。
図9: 光ファイバー方式変位計の原理図
受光素子で受光する反射光量と測定ギャップの関係は、図10に示したようになります。
図10: 光ファイバー方式変位計の測定ギャップと反射光量の関係
測定端面がターゲットと密着している状態では光は戻ってきませんが、測定ギャップが大きくなるにしたがって反射光量は急激に大きくなり、ピークを迎えたあと徐々に減少します。
測定ギャップが狭いほうの直線的な領域をフロントスロープ、測定ギャップが広い側の直線的な領域をバックスロープと呼びます。
フロントスロープは測定ギャップは小さいですが、バックスロープよりも感度が高く、高分解能な測定が可能です。一方バックスロープは測定ギャップが広く、広範囲な測定が可能です。
光ファイバー変位計では一台で高感度なフロントスロープと広範囲が測定出来るバックスロープを両方使用することができます。
投光ファイバーと受光ファイバーの束ね方は、図の11に示したようにランダム(R)、同心(C)、ハーフ(H)の3種類があります。束ね方によってフロントスロープの感度特性が変ります。Rタイプが最も感度が高く、次がCタイプ、Hタイプの順になります。
バックスロープの感度は、測定プローブの直径でほぼ決まり、束ね方にはあまり影響されません。
図11: 光ファイバー変位計のファイバーアレンジ
図12: ファイバータイプごとの特性の差異
光ファイバー方式変位計の特徴として、細いプローブを製作することが可能で比較的容易にサブミクロンオーダーの分解能が得られること、100kHz以上の高速応答が可能なことがあります。また、光を使った測定なので電磁ノイズの影響を受け難くなっています。また、1台で感度が異なるフロントスロープとバックスロープを使うことができます。
光ファイバー方式変位計の主な用途は、測定位置が変らず直線上の動きをする物体の振動や変位の測定です。圧電素子や磁歪素子、ボイスコイルモータやスピーカーやマイクロフォンなどの振動測定などに用いられています。
また、狭隘部への導入も可能であることから、機械装置内パーツの振動測定や変位測定などに用いられています。また、ナノメートルオーダーの分解能が得られることから材料試験機に組み込まれて使用されているものもあります。
光ファイバー方式変位計PM-Eの外観を図13に示します。
図13: 光ファイバー方式変位計PM-E
測定原理から分るとおり、光ファイバー変位計では測定箇所の反射率が変化するとそれに比例して反射光量も変化するため、測定箇所ごとに反射光量のキャリブレーションが必要になります。このため、測定対象が横方向に動くような用途には使用が困難でした。
この反射率のキャリブレーションの問題を解決したのが、差動型光ファイバー変位計です。
図14に原理図を、図15に光ファイバーのアレンジを示します。これはユニパルス独自の方式で、投光ファイバー、受光ファイバーA、受光ファイバーBをアレンジした三分岐光ファイバー束を用います。
図14: 差動型光ファイバ方式変形の原理図
図15: 差動型光ファイバー方式のファイバアレンジ
図16に示したように、受光ファイバーAとBの光量は、測定ギャップが狭い領域で急激に立ち上がり、少し後で受光ファイバーBの光量が大きくなります。
図16:受光ファイバーAとBの測定ギャップに対する光量変化
これらの和信号VA+VBおよび差信号VB-VAの測定ギャップの関係を図17に示します。
図17:和信号と差信号の測定ギャップに対する変化
差信号VB-VAの直線的な区間で、和信号VA+VBは測定ギャップが変化してもほぼ一定になります。すなわち、和信号はギャップにかかわらず反射率に比例、差信号は測定ギャップに対して敏感に変化し、反射率に比例します。差信号で和信号を除算すると反射率の影響を除去することができます。
差動型光ファイバー方式変位計の最大の特徴は、ナノメートルオーダーの高い分解能と3MHzまでの高速応答性です。高速性を活かした超高速位置決め制御や、圧電デバイスの振動測定などに使われています。
差動型光ファイバー方式変位計ATW200の外観図を図18に示しました。
図18:差動型光ファイバ変位計ATW200の外観
コイルでできた測定プローブに対向した金属板をターゲットにして、測定ギャップが変化した時のコイルのインピーダンス変化を変位に換算して測定する方式が「渦電流方式変位計」です。
図19に示したように、コイルに高周波電流を流すと、発生した高周波磁界が測定対象物である金属板に鎖交します。金属板にはレンツの法則に従って、磁界の変化を妨げる向きに渦電流が流れます。コイルから見ると、あたかもトランスの二次巻線が短絡されたようになっているため、測定ギャップが変化すると等価なトランスの結合度が変化するため、コイルの一次側から見たインピーダンスが変化します。このインピーダンス変化を測定ギャップに対して予め測定しておき、測定ギャップに換算します。
図19: 渦電流方式変位計の原理図
渦電流方式変位計は、測定ギャップの油や水の影響を受けないので、工作機械など水や油が飛び散るような環境でも使用可能です。一方で、渦電流の大きさは測定ターゲットの導電率で変化するため、ターゲットごとにキャリブレーションが必要になります。また、導電率は部材の中で一定ではなく、部材に穴が空いていたり、厚みが異なっていたりすると影響を受けてしまいます。このため、測定方向と直角方向に測定ターゲットが動くような場合、測定が精確にできない場合があります。
ユニパルスの渦電流変位計は、100kHzの高速応答性が特徴です。タービンブレードなど高速回転体の異常検出や回転速度測定などにもご使用いただけます。
渦電流方式変位計UEC-1の外観を図20に示しました。
図20: 渦電流方式変位計UEC-1の外観
表1にこれら4つの変位計の特徴をまとめました
表1: 各種非接触変位計の特徴
|
静電容量 |
光ファイバー |
差動型光ファイバー |
渦電流方式 |
検出原理 |
静電容量変化 |
反射光量変化 |
反射光量変化 |
インピーダンス変化 |
測定レンジ |
30μm~5mm |
30μm~3mm |
20μm~300μm |
1mm~2mm |
測定分解能 |
0.6nm~100nm |
0.1μm~2μm |
0.5nm~200nm |
0.1~0.2μm |
応答速度 |
1kHz, 5kHz |
~200kHz |
~3MHz |
100kHz |
ケーブル長 |
~10m |
~5m |
~5m |
~3m |
測定対象 |
導電体 |
平滑面 |
平滑面 |
金属(鉄系は感度が高い) |
表面粗さの影響 |
ほぼ無 |
やや影響を受ける |
影響を受ける |
ほぼ無 |
抵抗率の影響 |
金属では無 |
無 |
無 |
大きい |
測定領域 |
ほぼプローブ直下領域 |
フロントスロープ:ほぼプローブ直下の領域、 バックスロープ:プローブサイズの2-3倍 |
ほぼプローブ直下の領域 |
プローブ径の5倍程度の領域が影響する |
真空対応 |
可能 |
難しい |
難しい |
可能 |
長所 |
・測定対象物が導電体であれば感度が不変 ・高分解能 ・高精度 ・高安定 ・測定対象物の表面粗さに影響されにくい ・測定方向に対して直角方向に移動する物体の測定が可能(スピンドルやハードディスクなど回転体のぶれ測定、オートフォーカス用センサなど) ・磁界の影響を受けない(モータ内部の測定も可能) |
・高分解能 ・高速応答(~200kHz) ・測定対象物の電磁ノイズの影響を受けない ・フロントストープとバックスロープで、高感度測定と広範囲測定が1台で実現できる。 |
・高分解能 ・高速応答(~3MHz) ・測定対象物の反射率の補正は不要(通常の光ファイバ型では、測定対象物の反射率補正が必要) ・直流から高周波まで測定可能
|
・高速応答(~100kHz) ・測定空間の水や油などの影響を受けない。 |
短所 |
・測定空間の水や油などの影響を受ける
|
・測定対象物ごとにキャリブレーションが必要 ・測定対象物の反射率の影響を受ける ・測定対象物の表面粗さの影響を受ける ・測定空間の水や油の影響を受ける
|
・測定対象物の表面粗さの影響を受ける ・測定空間の水や油の影響を受ける |
・測定対象物ごとにキャリブレーションが必要 ・変位特性への影響範囲がプローブサイズに対して広範囲に及ぶ |
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